A:高臨場感視聴覚併用複合現実環境の構築


研究経過

【H24-25年度】
 反射と残響感を制御するXドームの設計・拡張

・ドーム壁面による音像構築と床面による不要反射音の吸音
 図1に示すXドームを構築し,音像プラネタリウムベースユニットを用いて壁面音像の構築を試みた。その結果,壁面に音像を構築できたものの,ドームの特性上,壁面にて反射した音は床面に集まることが確認できた。そこで,壁面では反射,床面では吸音を実現できるよう図2のようにXドームの床面を改良することで,壁面に音像を構築しつつ,不要な反射音を除去することに成功した。

図1 構築したXドームと
音像プラネタリウムベースユニット
図2 吸音用床面

【Xドーム建設の様子】

    【デモムービー:音像プラネタリウム方式】

     (※音声が再生されます)



・床下に設置した間接スピーカによる残響感の制御
 Xドームの残響量は,空間の大きさと反射面の材質により一意に決まる。しかしながら,スピーカから反射音だけを出力することができれば,擬似的に残響空間を制御できる可能性がある。
 そこで図3に示すXドーム床面に設置した間接スピーカ(直接音がユーザに直接届かないスピーカ)を用いて目的音の残響成分だけを出力することで,図4に示すとおりXドーム内の残響量の擬似的な制御に成功した。本研究により,音像を保持したまま, Xドーム固有の残響時間よりも長い残響を実現できており,現在,短い残響について研究を推進している。

図3 床面に設置した間接スピーカ
図4 残響時間制御結果

                                 【デモムービー:間接スピーカを用いた残響付与】

                                   (※音声が再生されます)



・超音波スピーカとサブウーハの併用による高音質化
 これまで超音波スピーカは音像を構築できるものの,音質には改善の余地があり,特に低域の音質が低いという問題があった。
 そこで,音像を制御する音像プラネタリウムベースユニットに対して,図5に示す低域を出力可能なサブウーファーを搭載して,音像の音質改善を試みた。その結果,音像知覚に影響を及ぼすことなく,低域の音質改善を行うことに成功した。

図5 サブウーファーを搭載した
音像プラネタリウムベースユニット


【H25-26年度】
 移動音源の実現に向けた超音波スピーカユニットの設計・構築

・超音波素子形状の模索・設計とそれに基づく移動音源の実現
 これまで超音波スピーカは鋭い指向特性を持つことが明らかとなっているが,指向特性を制御できればユーザの人数に合わせて音を放射する範囲も制御できるため,スピーカの用途が格段に広がる。
 そこで我々は図6に示すような超音波スピーカの放射面を曲面に加工することで指向特性を広げることに成功した。現在,放射面をフレキシブル制御することで,音の伝達範囲の制御について研究を進めている。またこの放射板を活用して移動音像の実現に関しても研究を推進している。

図6 凹面型超音波スピーカの試作

・アレー信号処理を用いた移動音源の高臨場表現
 放射面の形状に加えて,駆動させる超音波素子に信号遅延を与えて放射することで,移動音像の知覚が可能ではないかという仮説を立て,図7のように放射板上の超音波素子を1列ずつ駆動可能な基板を構築して実験を行った。
 その結果,図8に示すとおり単一の超音波スピーカにより,ユーザに対して移動音を提示できることが明らかとなった。

図7 移動音像の考え方
図8 移動音像の実現の様子


【H26-27年度】
 空間のある1点にだけ音を届けるオーディオスポットの実現

 これまで超音波スピーカは直線状の指向特性を有していたが,その仕組みは可聴音を用いて超音波を変調し,変調信号を超音波スピーカから放射することで,空気の非線形性を使って空気中で復調させるという原理であった。
 そこで,この復調を空間中の1点でのみ生じるように変調信号を複数の超音波スピーカから独立して放射することができれば,空間の1点にだけ音を出力可能な極小領域オーディオスポットを実現できるのではないかという仮説の下,図6に示す片耳3台の超音波スピーカを用いて耳元でのオーディオスポットを検討し,耳元周辺でのみ音を再生可能な1点制御のオーディオスポットの構築に成功した(図7)。さらに,オーディオスポット領域の大きさを制御するために,前述(図4)の凹面型超音波スピーカを活用し,放射特性を自由に制御することで,音像の体験者数を自由に制御することに成功した。スピーカは,音量と周波数特性を調整する仕組みは提案されていたが,スピーカの放射特性を制御する仕組みは提案されておらず,この技術は世界初の試みと言うことができる。H27年度以降映像技術と融合することで,ユーザの体験数に合わせた音像の構築を試みる。

図9 超音波信号の分離放射の様子
図10 オーディオスポットの様子

                              【デモムービー:分離放射によるオーディオスポット】

                                人形の耳に内蔵したマイクロホンでの収録音を再生

                                (※音声が再生されます)



【H27-28年度】
 超音波スピーカを用いた指向性制御技術の開発

・フレキシブル超音波スピーカの開発
 超音波スピーカの放射板をユーザ数にあわせて自動制御することで,指向特性の広狭を自在に制御可能なフレキシブル超音波スピーカを開発した。図11に示すように放射版を凹面制御することで,均一音圧の条件にて音の放射範囲を拡大することに成功した。

図11 フレキシブル超音波スピーカの実機

                              【デモムービー:フレキシブル超音波スピーカ】

                                (※音声が再生されます)


・ユーザ追従型超音波スピーカの開発
 人の顔を検出し,その検出方向に超音波スピーカを制御することで,ユーザを追従可能な超音波スピーカを開発した。図12に示すようにスピーカには雲台を取り付けることで,上下左右あらゆる方向のユーザをリアルタイムで追従可能なシステムを構築した。前述のフレキシブル超音波スピーカを用いることで,ユーザを追従するだけでなくユーザ数にあわせて指向性の広狭を制御することで,新しい音空間の創出が期待できる。

図12 ユーザ追従型超音波スピーカの実機

                              【デモムービー:ユーザ追従型超音波スピーカ】

                                人の両耳に設置したマイクロホンでの収録音をステレオ再生

                                (※音声が再生されます)



【H28-29年度】
 ダブル音像プラネタリウムの開発およびコンテンツ製作・評価

・ダブル音像プラネタリウムベースユニットの開発
 これまで開発した記述要素を踏まえて,図13に示すようなダブル音像プラネタリウム方式の開発を行った。図14に示すようにベースユニットを床面部に加え天井部にも設置することで,反射音線パスが格段に増加するため,従来実現できなかった音像の距離制御が可能となった。音線パスが増えることで,より自然な移動音像を実現できるため,大幅な表現力の向上を実現できた。

図13 音像ダブルプラネタリウムの概略
図14 音像ダブルプラネタリウムの実機

・ダブル音像プラネタリウム方式を用いたコンテンツ製作および評価
 放射板の曲面構造を積極的に活用し,フレキシブル構造を取り入れたベースユニットを開発することで,多人数が音像を同時に体験できる空間や,極小領域オーディオスポット技術を活用することで特定の人だけが音像を体験可能な空間を構築した。さらに,移動感に加え残響感も表現可能なXドームを最大限活用することで,ダブル音像プラネタリウム方式を用いたコンテンツ製作を行い最終評価を行った。

                              【デモムービー:ダブル音像プラネタリウム】

                                人の両耳に設置したマイクロホンでの収録音をステレオ再生

                                (※音声が再生されます)